技術とはなんだろうか。
2年前のこと、日曜昼下がり、蕎麦を食べに浅草に出た。いつもの尾張屋に入る。蕎麦屋は昼から酒が堂々と飲める。私はいつも通りビールを注文した。キンキンに冷えたアサヒの中瓶が出てくる。小さな皿にあられがほんの少しついてくる。足りないので茄子田楽を頼んだ。ビールの次はお酒にする。熱燗一本とそば豆腐を頼んだ。締めに花巻を頼んでみた。海苔の香りが格別であった。
良い気分になって店を出て、浅草松屋地下の食料品売り場で焼酎を一本と氷を一袋、焼き鳥を5本買った。
デパートを出たところにとタクシー乗り場がある。ちょうど個人タクシーが待っていた。窓には「タクシー運賃1割引」の黄色いステッカーが貼ってある。ラッキーである。運転免許返納者は個人タクシーに1割引で乗車できるのである。
高齢の運転手に行き先を伝え、免許を返納したことを告げた。すると、「さびしいでしょ」という言葉が返ってきた。感情言語である。驚いた。運転手はさらに、「自分は83歳で来年更新だが、もう3年はやるつもりだ」と言った。私が「ネズミ年か」と訊ねると、「そうだ」というので、「一回り下です」と話すと一瞬の間が生まれた。私の年齢を低く見ていたようであった。
しかし、83歳である。少々運転が心配になった。
浅草からの家までのコースは、言問橋を渡り、検番通りから墨堤通りに入ることにしている。言問橋を渡り終わり、次の信号の手前の角を左折して検番通りに入るはずなのに、運転手は少し右にハンドルを切った。「右折ではない⁉」と言おうとした瞬間に彼は左にハンドルを切った。
普段乗るタクシーより大きな弧を描いて、車は検番通りの入り口で止まった。すると、車の前を一台の自転車がスーッと通って行った。運転手は橋から降りてくる自転車を知っていた。「ここは危ないところです」と言って検番通りに入っていった。「白鬚橋を渡って左折するところも危ないですよ」と教えてくれた。彼はいろいろな危険個所を知っているのだろう。
運転経験を聞くと「50年」と答えた。都内のどこが危ないかを経験的に知っているのだろう。カーナビには表示されない情報である。高齢になれば反応時間は落ちる。それを経験によってカバーし、安全運転をしている。感心した。
大過なくグループを行うにはコンダクター経験を重ねることが大切。経験の積み重ねが技術につながると思っている。コンダクターの経験を積みましょう!
高林 健示
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